3.身代わりの夜








「何?」
眉を顰める怪人に向かって、震える唇でもう一度はっきりと言った。

「クリスの代わりに…貴方に抱かれます」

はっと我に返る。
私、何を言ってるんだろう。
でも、これ以外思いつかなかったのも、
助かりたいと思ったのも、
激しく後悔している事も、
全て紛れもなく真実だった。
私は拳に力を入れ、怪人を見上げる。

怪人はしばらく、信じられない、という顔をしていたが、
私をまじまじと見た後
「いいだろう」
そう言ってパンジャブの輪をするりと解いた。

「来い」
怪人は階段を下へと降り始めた。
その数段後をついていく。

階段を下れば下る程、私は恐怖を感じた。
なんて暗くて冷たい場所なのだろう、と。
しかしこれからこの場所以上に恐ろしく卑劣な怪人に抱かれるのだ。
もしかすると、あの時殺されていた方がまだマシだったのかもしれない。
これから起こるであろう悲劇を脳裏に掠めた時、怪人が急に口を開いた。

「名は?」
「はい!?」
「名はなんというのだ」

意外にも凡人らしい質問にただ目を丸くした。
「…です」
偽名を使おうかと思ったが、
オペラ座にいる限りバレる野は時間の問題だった為、諦めた。

「そうか」
そう呟くと怪人はまた沈黙した。
一瞬、少し可愛い人に思えたが、
相手はあの悪名高い「オペラ座の怪人」
人を殺した事もあるとも噂では言われていた。
偶然迷い込んだ私を殺そうとする位なのだから、噂は本当なのだろう。

私、殺されちゃうのかな?
心の中で呟き、嘆息した。


「入れ」
幾つ目かの踊り場から、少し広めの寝室へ出た。
もしかすると、ここは怪人のアジトなのかもしれない。
バタン
ドアの閉まる音がやけに大きく聞こえる。
不安になり一応部屋に危険な物がないか見回すが、
逆にあまりの殺風景さに驚かされた。
部屋に在るのは小さな本棚と少し広めの柔らかそうなベッドだけだった。
一体どうやって生活しているのだろうと推察していると、
怪人が私を見つめている事に気付いた。
「一応弁解しておくが、ここは私の部屋と言っても、仮眠室だ」
びっくりして、何で分かったんですか、と恐る恐る聞いてみる。
が怪人は返事を返さず距離を私との詰めた。
「そんな事より」

急に視界が暗くなり、体が宙に浮かんだ。
おそらく目隠しをされ、体を持ち上げられたのだろう。
だとしたら次の行き先は―――

ぼふっとベッドに降ろされた次の瞬間にはもう、
怪人は私の上にのしかかっていた。


「始めよう」


「やっ」
首筋に咬みつくようなキスを落とされる。
体も、心も震えた。
こんなつもりじゃなかった。
私はただ助かりたかっただけだ。
こんなに無情に処女を奪われる為に生きてきたわけじゃない。
でも自分から選んだ以上、抵抗など出来なかった。
私は自らの命と引き換えに純潔を売ったのだから。

心の中で必死に抵抗している間に、
怪人は私の肌を露にしていく。
一層羞恥を感じ、
この先の展開が読めない事を恐れた。
そんな私の心を知る由もなく、
怪人は下着を剥ぎ取り、
身に着けている物は目隠しだけになった。
私の頭は羞恥心で真っ白になった。

不意に伸びてきた手が私の胸を鷲掴みにし、揉みほぐしてくる。
自分が触れているのとは違う感覚に驚いたのはその直後だった。
「はぁ…んっ…」
怪人の右手が胸の突起を弄り、口で左の突起を舐め始めたのだ。
電撃が走ったような感覚に身を捩った。
「ひっ」
これがいわゆる快楽というものだろうか。
そう思わされたのは、舐められた突起を甘噛みされてからだ。

この感覚に集中していれば何も考えずにやりすごせると思った。

その時、右胸を弄んでいた手が離れ、
まもなく未開の蕾に壮絶な痛みが走った。
あまりの痛みと羞恥心から、それまでシーツを強く握っていた手で怪人の右腕を探り当て、抑えた。
「やぁ…ぬいっ…て…」
「手を離せ」
「…でもっ…」

私が必死に啼くと急に怪人は指を引き抜き、両手を掴んだ。
そしてもう一方の手でどこからか取り出した縄できつく腕を縛り頭上へと繋いだ。


初めて名を呼ばれ、私は体を止めた。
怪人の気配が近づいてくる。
吐息がかかる程近づいて来たと思ったら目隠しをずらされた。
久しぶりに開かれた視界では、
圧迫するような両の目が私を見据えていた。
「これ以上暴れるというなら、容赦なく絞め殺す」

背筋が凍りつく。
怯えた私の目を見て満足したのか、
怪人は目隠しを元の位置に戻した。
再び訪れた闇の中で、私は涙を流した。

酷く怖かった。
何よりも、狂気を宿したその瞳が。

「いっ…!』
再び体に異物が挿入された。
一本、また一本と指が埋め込まれていく。
私は必死に、身が裂けるような痛みに耐えた。

暫くして、グチュッと音を立てて、腹の下を圧迫していた物が引き抜かれた。
息を吐き、安堵するのも束の間、
蕾の入り口に物をあてがわれ、息を飲んだ。
――来る…!
直後、身体は無残にも貫かれた。

「ひぃっ…い…っく…」
怪人は何度も体をぶつけ、膣内を擦る。
痛みと屈辱と絶望に私はただ涙を流す。
そしてこれ以上心を侵されぬよう、感覚を痛みへ集中させた。

小さな呻き声と共に欲望が最奥で弾け、
私は意識を手放した。








あとがき
さん、痛い思いばかりさせてすみません!
次から話が急展開…のはず(なんじゃそりゃ)









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